買掛金の意味|売掛金との違いや仕訳の具体例を解説

買掛金の意味|売掛金との違いや仕訳の具体例を解説

事業活動を行うにあたり、取引先から商品を仕入れる機会は多々あります。そして、ビジネス間取引において必ず発生するのが「買掛金」です。事業の拡大に伴い、買掛金の金額は増加傾向にあり、回収・支払いサイクルの変化により資金繰りが悪化する可能性もあります。

起こり得る資金繰りの悪化リスクを少しでも防ぐためには、買掛金についての知識をあらかじめ持っておくことが欠かせません。

そこで今回は、買掛金の基礎知識として、概要や似たような「売掛金」「未払金」との違いから、買掛金に関する具体的な取引と仕分け例、買掛金に関する取引での注意点まで詳しく解説します。企業経営者や経理業務・会計業務を行う担当者は、ぜひ参考にしてください。

 

1.買掛金とは

買掛金とは、取引先・外注先との取引(原材料・商品の購入など)によって生じた購入金額のうち、あとから支払わなければならない債務のことです。なお、買掛金にあたるものは、掛取引で増加する負債の中で「商品の仕入(本業の取引)に関するもの」のみです。

そもそも掛取引とは、代金を回収する前に商品を受け渡す取引のことを言います。企業同士が原材料や商品の仕入れによる取引を行う際、取引に必要となるお金を都度やりとりしていると、双方の負担が大きく発生してしまいます。そのため、まとめて代金の支払いができる掛取引が行われます。

買掛金は、この掛取引において必ず発生する金額項目であり、損益計算書には「売上原価」として構成されます。

そして買掛金とよく似た言葉に、「売掛金」「未払金」がありますが、具体的にはそれぞれ意味が異なることに注意が必要です。ここからは、買掛金と売掛金の違い・買掛金と未払金の違いについて紹介します。

 

1-1.売掛金との違い

売掛金とは、商品販売後に受け取れる代金のことです。掛取引で用いられる勘定科目であり、取引先同士の信頼がなければ成り立たないという部分では買掛金と同様ですが、定義が大きく異なります。

買掛金・売掛金の違いをより詳しく理解するためにも、下記の表を参考にしてください。

 概要状況例
買掛金商品の受け渡し後に支払わなければならない代金のことA社(自社)は、B社に商品の発注を行った。B社から発注した商品を納品されたあとは、外注費を支払わなければならない。
売掛金商品販売後に受け取れる代金のことB社(自社)は、A社から商品の発注が届いた。発注された商品をA社に納品したあとは、外注費が支払われる。

つまり、買掛金はのちに代金を支払わなければならない債権者の立場から見た代金であり、売掛金はのちに代金が支払われる債務者の立場から見た代金ということです。

 

1-2.未払金との違い

買掛金は、取引(原材料・商品の購入など)によって生じた代金のうち、あとから支払わなければならない代金を指すことから、「未払金」と同様のイメージを抱く人も少なくありません。しかし、実際には買掛金と未払金の意味は大きく異なります。

未払金とは、掛取引以外の取引において未払いとなっている代金のことです。具体的に言うと、後日まとめて入金する事業用車両の購入代金・水道光熱費などが挙げられます。買掛金とは異なり、損益計算書の売上原価を構成するものではありません。

 

2.買掛金に関する具体的な取引と仕訳の例

買掛金は、貸借対照表の勘定科目にて「負債」と区分されます。買掛金が発生する掛取引においては、仕訳などの会計処理が必要です。仕訳を行うタイミングは、請求書を取引先から受領した時点となります。

買掛金の増加はいわゆる「負債の増加」であるため、仕訳の際は貸方科目に記入することが基本となっています。一方で、買掛金が減少する場合は「負債の減少」となるため、借方科目に記入することが基本です。

このように、買掛金に関する取引を行う場合は、適切に仕訳を行わなければならないことに注意してください。ここからは、買掛金に関する取引の中でも基本的な取引とケースごとの仕訳方法を紹介します。

 

2-1.商品を掛けで仕入れた場合

例えば、「取引先から10万円の仕入れ代金における請求書を受領した」というシンプルな場合には、下記のように仕訳を行います。

借方貸方
仕入100,000買掛金100,000

上記の形で仕訳を行うことにより、買掛金として10万円の負債が生じたということになります。

 

2-2.買掛金を当座預金から支払った場合

掛取引で仕入れた商品の代金10万円を、当座預金から支払った場合は、下記のように仕訳を行います。

借方貸方
買掛金100,000当座預金100,000

上記の形で仕訳を行うことにより、10万円の負債は消滅したことになります。なお、小切手で支払った場合は「現金」と同等とみなされるため、現金勘定で仕訳することが基本です。

 

2-3.買掛金を支払うために約束手形を振り出した場合

掛取引で仕入れた商品の代金10万円を、当座預金・小切手・現金ではなく約束手形を振り出した場合は、下記のように「支払手形」で仕訳を行います。

借方貸方
買掛金100,000支払手形100,000

上記の形で仕訳を行うことにより、買掛金である10万円の負債は消滅したものの、約束手形の負債が生じたということになります。

 

2-4.仕入れた商品を返品した場合

10万円の買掛金で仕入れた商品に破損があったため、不良品として返品した場合は、下記のように仕訳を行います。

借方貸方
買掛金100,000仕入戻し・仕入値引き100,000

上記の形で仕訳を行うことにより、買掛金や負債の消滅処理が行われます。また、「仕入」という項目にして、買掛金と仕入れを相殺することも可能です。なお、仕入れた商品の一部を返品する場合は、値引き分を記載して減額します。

 

2-5.期限よりも早く支払って割引を受けた場合

取引条件によっては、支払い期限よりも早く買掛金を支払うことでいくらかの代金が割引される場合もあります。

たとえば10万円の買掛金で仕入れた商品を、仕入日から1週間以内に支払うと代金から2%が割引される条件で取引を行い、実際に1週間以内に迅速に買掛金を当座預金で支払った場合は、下記のように仕訳を行います。

借方貸方
買掛金100,000当座預金98,000
仕入割引2,000

上記の形で仕訳を行うことにより、仕入割引といった収益勘定で処理することが可能です。なお、損益計算書において仕入割引は「営業外収益」として計上しなければならない点に注意してください。

 

3.買掛金の残高を確認できる買掛金元帳

「買掛金元帳」と使うと、買掛金の残高を確認することが可能です。買掛金元帳とは、取引先ごとに買掛金を管理するための補助簿のことで、「仕入先元帳」とも呼ばれます。

事業の拡大に伴い、取引先も増加する傾向です。取引先が増加すれば、その分しっかり管理を行わなければなりません。ずさんな管理により、万が一取引先への買掛金の支払い漏れがあった場合は信用問題に傷がつき、今後の取引に大きな影響を与える可能性があります。

取引状態や支払い状況を正確に把握し、買掛金の支払い漏れを防ぐためにも、買掛金元帳を積極的に活用することをおすすめします。

 

4.買掛金に関する取引についての注意点

掛取引で買掛金を用いる場合は、いくつかの点に注意しなければなりません。注意すべきことを無視していると、企業の経営状態や信用問題に悪影響を及ぼす可能性があります。

買掛金に関する取引についての主な注意点は、下記の2点です。

  • ●買掛金の管理は正確に行う
  • ●回転期間・回転率のモニタリングを行う

最後に、それぞれの注意点について詳しく解説します。

 

4-1.買掛金の管理は正確に行う

買掛金の管理がずさんな場合は、支払い期限までに買掛金を支払えなかったり、間違った代金を支払ってしまったりする可能性があります。特に支払い期限を過ぎた場合は取引先からの信用に大きな傷をつけてしまうでしょう。

事業の拡大や新たなサービス形態の提供により、取引先が増加したタイミングは特に注意が必要です。買掛金の管理を正確に行うためにも、買掛金元帳で欠かさず帳簿をつける・会計ソフトや会計システムを活用する・専門家に依頼をする・適切な人材を増やすなどして、万一のトラブルを防ぎましょう。会計ソフトにはシンプルな機能をもった安価なクラウド会計ソフトも多くあるため、まず導入してみることもおすすめです。

 

4-2.回転期間・回転率のモニタリングを行う

回転期間・回転率を確認することで、事業の安定性や資金繰りを把握することが可能です。買掛金の回転期間とは、買掛金の支払いまでに要したおおまかな日数のことで、回転率は買掛の効率を示す数値を指します。それぞれ、下記のような計算式で算出できます。

回転期間
  • ●回転期間(日)=買掛金(仕入)債務÷売上原価×365日
  • ●回転期間(月)=買掛金(仕入)債務÷売上原価×12月
回転率
  • ●回転率(%)=売上原価÷買掛金残高×100

回転期間が短ければ、支払いが滞りなく行われているとみなされる反面、資金繰りに余裕がないと判断される可能性もあります。そして回転率が低ければ資金繰りに余裕があると判断されることが多く、高ければ仕入れ先から迅速な支払いを求められていると判断される傾向です。

しかし、一概に回転期間が長い方がよい・回転率が低い方がよいとは言えません。数字だけを見て経営状態を判断するのではなく、前年度と比較して今後の課題を見つけるなど正しい活用方法を実践しましょう。

 

まとめ

買掛金は、ビジネス間取引において必ず発生する代金であり、取引先との取引(原材料・商品の購入など)によって生じた購入金額のうち、あとから支払わなければならない債務のことです。買掛金とよく似た言葉に、「売掛金」「未払金」がありますが、厳密にはそれぞれ大きな違いが存在します。

また、買掛金に関する取引を行う場合は、適切に仕訳を行う必要があることにも注意しましょう。取引のケースによって仕訳の方法が異なります。

買掛金に関する取引を行う際は、買掛金の管理を正確に行うこと・回転期間や回転率のモニタリングを行い、事業の安定性や資金繰りを把握することも重要です。ここまでの内容を参考に、ぜひ自社の買掛金の状況を正しく把握してください。