事業目的の概要と書く際のポイント|3つの注意点も紹介

事業目的の概要と書く際のポイント|3つの注意点も紹介

会社設立時に作成する定款には「事業目的」を記載する必要があります。必ず書かなければならない事項ですが、書き方には特に決まりがないため、どのように書くべきか迷っている人もいるのではないでしょうか。事業目的は、今後の会社経営を左右する重要事項であるため、慎重かつ適正に記載することが求められます。

そこで当記事では、事業目的の概要や書く際に押さえるべき要素、注意点、事業別の具体例を紹介します。独立にあたって必須となる事業目的の書き方を理解し、起業を成功へ導きましょう。

 

1. 事業目的とは

事業目的とは、定款に必ず書くよう定められている絶対的記載事項の1つで、「会社で行う具体的な事業内容」のことです。定款とは、会社の規則を定めたもので「会社の憲法」とも呼ばれます。定款の絶対的記載事項には、事業目的のほかに「商号(会社名)」「本店所在地(登記上の事業の中心地)」「出資財産の価額」「発起人の氏名と住所」があります。絶対的記載事項のうち1つでも記載がなければ定款自体が無効となるため、抜けや漏れのないよう書かなければなりません。なお、事業目的は定款だけでなく登記簿の記載事項でもあります。

 

1-1. 事業目的を決める際に押さえるべき3つの要素

事業目的は任意の表現で書くことが可能です。ただし、自由にどのような内容でも書けるのではなく、以下の3つの要素を押さえる必要があります。

適法性違法性のあるものを事業目的とすることはできません。たとえば、「違法薬物の密輸」「詐欺」など、公序良俗に反する内容は認められません。
営利性会社は利益を上げることを目的とする必要があります。ボランティアや寄付などの営利性のない活動を事業目的とすることはできません。
明確性事業目的は誰にでも誤解なく伝わるよう明確に記すことが必要です。事業目的が不明瞭では、取引先や金融機関などの信頼を得られない恐れがあります。

 

2. 事業目的を書く際のポイント3選

事業内容の記載方法には決まりがないため、かえってどのように書けばよいのか分かりづらい傾向があります。事業目的の書き方に迷った際は、以下の3点を意識しましょう。

  • 同業他社やひな形を参考にする
  • 事業拡大を見越して記載する
  • 誰が見ても分かりやすいように書く

ここでは、事業目的を書く際に事業者が押さえるべき3つのポイントについて解説します。

 

2-1. 同業他社やひな形を参考にする

事業内容の書き方が分からないときは、同業他社のコーポレートサイトやひな形を参考にしましょう。コーポレートサイトであれば会社概要のページに事業目的が掲載されていることが一般的です。サイトに事業内容を載せていない企業を参考にしたい場合は、「登記事項証明書」か「登記事項要約書」を見る方法もあります。いずれも法務局で申請すれば入手することが可能です。なお、登記事項証明書はオンラインで交付申請でき、登記事項要約書は窓口対応のみでオンラインによる請求はできません。交付にかかる手数料は、登記事項証明書が600円、登記事項要約書が450円です。

出典:法務省「登記手数料について」

事業目的のひな形は、インターネットで検索して見つけることができます。同業他社の書き方やひな形は、どちらも事業目的として問題のない内容となっているため、参考にして損はないでしょう。

 

2-2. 事業拡大を見越して記載する

事業目的には、会社設立後すぐに行う予定はなくても、将来的に展開する構想がある事業についても書いておきます。わざわざ将来の事業も書くのは、原則として定款に記載していない事業は行えないためです。いずれ取り組む可能性のある事業であれば、定款の事業目的に記載しましょう。

事業開始後に事業目的に追加や変更がある場合、まず株主総会で特別決議を得る必要があります。総会の議事録を作成の上、事業所の所在地を管轄する法務局に提出し、追加や変更の申請を行わなければなりません。費用も必要です。予定している事業をあらかじめ盛り込んでおけば、事業目的の追加や変更に伴う面倒な手続きをせずに済みます

 

2-3. 誰が見ても分かりやすいように書く

誰が見ても「何をする会社なのか」が明確に伝わるように書くことも重要なポイントです。事業目的は、基本的に誰でも閲覧できます。たとえば、こちらから取引を持ち掛けた企業が登記事項証明書などを調べることもあります。また、会社名義で法人口座を開設する際には、登記事項証明書の提出を求められることが一般的です。

しかし、事業目的が不明瞭で分かりづらい場合は、取引先や金融機関からの信頼を得ることが難しくなります。取引や口座開設を断られることにもつながりかねません。そのため、事業目的は明確で理解しやすい書き方を意識しましょう。

 

3. 事業目的を書く際の注意点

事業目的は比較的自由に書けるものの、記載内容や書き方によっては事業を行う許可が得られなかったり、対外的な信頼を損ねたりすることがあるため、注意が必要です。将来を見越して書いておいたほうがよいとはいえ、あまりにも事業目的が多いのは好ましくありません。ここでは、事業目的を書く際の注意点を3つ解説します。

 

3-1. 許認可が必要になるのか確認する

事業活動の内容によっては、国や地方自治体から許認可を得る必要があります。その場合、定款にも許認可要件を満たす事業目的を書くことが大切です。たとえば、居宅サービス事業を行う場合は、「介護保険法に基づく居宅サービス事業」と書く必要があります。

自分の行いたい事業に許認可が必要なのか分からないときは、申請を行う役所の担当者などにあらかじめ相談するとよいでしょう。なお、許認可が必要な主な業種には以下があります。

  • ・建設業
  • ・飲食業
  • ・運送業
  • ・介護業
  • ・警備業
  • ・労働者派遣事業
  • ・職業紹介事業
  • ・古物営業
  • など

 

3-2. 事業目的を書きすぎないようにする

事業目的の記載数に制限はなく、いずれ展開しようと考えている事業を書くことも可能です。とはいえ、設立したばかりの会社が30も40も事業目的を掲げていると、いったい何の会社なのかと不審に思われるリスクがあります。金融機関に融資を申し込んでも、実態が見えないとして審査で落ちかねません。

そのため、会社設立の時点では主にどのような事業を行っているのかが分かるよう、メインとなる事業目的を10件程度に絞るようにしましょう。

 

3-3. 「附帯関連する一切の事業」を最後に記載しておく

事業が軌道に乗ってくれば、関連事業に手を広げることもよくあります。とはいえ、定款に載せていない事業を新たに始める場合は、事業目的の変更や追加の手続きと費用が必要です。

そのため、事業目的の変更などに伴う労力を省きたい場合は、事業目的の最後に「附帯関連する一切の事業」と記すことが重要です。「附帯関連する一切の事業」の一文が書かれていれば、定款に明記していなくても、既存事業と関連する事業なら行うことができ、将来に展開する事業の幅も広がります

 

4. 【事業・業種別】事業目的の具体例

ここでは、事業目的の書き方を具体的に知りたい人に向けて、事業・業種別に事業目的の記載例を紹介します。

インターネット事業

・インターネット上のコンテンツ企画、制作および管理業務

・インターネットやそのほかの通信を活用して行う通信販売業

・インターネットを利用した情報提供サービス業

・音声および映像のソフトウェアの企画、開発

飲食業

・レストランの経営

・農水産物およびその加工品の製造、販売ならびに輸出入

・料理教室の経営、企画および経営のコンサルティング業務

宿泊業

・旅館あっせん業

・賃貸別荘、賃ビル、旅館、ホテルなど宿泊施設の経営

教室・教育事業

・料理教室の経営

・各種資格取得講習会の主催

・カルチャースクールの開設指導および経営

・託児所および保育所の運営

サービス業(レジャー)

・演芸や演劇、映画そのほか各種イベントの興行

・ナイトクラブの経営

・音楽CD、DVD、ビデオなどの原盤およびそのほかの企画、制作ならびに輸出入および賃貸

・映画やコンサート、演劇などの各種催物チケットの販売

コンサルティング業

・企業経営に関する各種コンサルティング業務

・人材育成、能力開発のための教育事業

・経済、金融、資本市場および企業に関する研究調査業務

ただし、上記はあくまで記載例のため、このまま書く必要はありません。他社の定款も参考に、自社の事業目的に合った文言を考えましょう。

 

まとめ

事業目的は、定款に必ず記載する必要がある項目です。定款にない事業を行うことはできないため、将来の事業拡大も見据えて記載することが大切です。とはいえ、あまりに数が多いと実態が見えづらく、取引先企業や金融機関から信頼を得られない可能性もあります。

そのため、事業目的を10件程度に絞った上で、「附帯関連する一切の事業」の一文を記しておくのがおすすめです。同業他社の定款も参考にして内容を十分に吟味し、自社に適切な事業目的を記載しましょう。