業種・業態にかかわらず、企業にとって経営指標の把握は重要です。そして経営指標の中でも、企業の収益性を示す尺度が「経常純益率」となっています。
自社の資産・経営状態や営業成績を分析し、今後の課題を挙げて改善に向かうためには、この経常純益率の把握が欠かせません。では、経常純益率はどのようにして計算するのでしょうか。
そこで今回は、経常純益率の意味や計算方法から、業界の平均率、財務分析に経常純益率を用いる方法と注意点まで詳しく解説します。経常純益率の意味を知り、財政状態の改善へと役立たせたいと考えている中小企業の担当者は、ぜひ参考にしてください。
1.経常利益率の意味と計算方法
企業の収益性や財政状態を確認する指標にはさまざまなものがありますが、その中でも「経常純益率」とは、売上高に対する経常利益の割合を意味する言葉です。
本業だけでなく資金調達力や財務活動など、事業活動の総合的な収益性を示すものであることから、いわゆる「企業の正確な収益力や経営安全性を測る財務指標・判断材料」と言えるでしょう。
経常純益率の計算方法は、下記のとおりです。
経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
経常利益率の比率は、高ければ高いほどよい(収益性が高い)とみなされます。マイナス値となってしまった場合は、言わずもがな「損失が生まれている」と判断できます。
1-1.経常利益の意味
正確な経常利益率を判断するためには、「経常利益」そのものの意味を正しく理解しておかなければなりません。
前述した内容からわかるとおり、そもそも経常利益とは「普段の事業活動により得た利益」のことで、会社の利益を把握できる損益計算書に記載される他の利益項目の中でも特に注目される利益です。
また、損益計算書に記載される経常利益以外の利益項目には、下記の4つが挙げられます。
〇売上総利益
売上総利益とは、売り上げから商品原価を差し引いた利益のことで、いわゆる企業が取り扱っている商品やサービスの付加価値を示す指標です。「粗利益(あらりえき)」とも呼ばれています。売上総利益の計算式は、下記のとおりです。
売上高総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100
〇営業利益
営業利益とは、売上総利益からさらに販売費および一般管理費を差し引いた利益のことで、いわゆる企業の本業・営業活動により得た利益を示す指標です。企業の収益性と経営管理の効率性を判断できます。営業利益の計算式は、下記のとおりです。
売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
〇税引前当期純利益
税引前当期純利益とは、年間の経常利益に特別臨時収入を加え、さらにそこから特別損失を差し引いた利益のことです。いわゆる、法人税などを納税する前の段階の利益を示します。税引前当期純利益の計算式は、下記のとおりです。
税引前当期純利益(円)=経常利益+特別利益-特別損失
〇当期純利益
当期純利益とは、税引前当期純利益から支払うべき税金を差し引いた利益のことで、いわゆる企業が最終的に得られた利益です。企業が年間でどれほどの利益を生み出したのかを把握することができます。当期純利益の計算式は、下記のとおりです。
当期純利益(円)=税引前当期純利益-法人税等
このように、企業の財政状態を把握するためにはあらゆる指標が存在します。その中でも経常利益は、経常的に(日頃から)発生する収益と費用を網羅しているため、次年度以降の当期純利益の予測に活用することが可能です。
2.経常利益率の業界平均
全産業における経常利益率の標準は、おおよそ3~4%と言われています。しかし、業界や会社規模ごとに平均値や水準は大きく異なることが実情です。
下記は、企業規模を問わない主要産業(製造業・卸売業・小売業・合計)に絞った経常利益率となっています。
■主要産業の経常利益率(推移)
産業 経常利益率(%) 2017年度 2018年度 製造業 7.7% 7.3% 卸売業 3.3% 3.2% 小売業 3.0% 3.1% 主要産業合計 5.5% 5.3%
企業規模を問わない主要産業という大きな枠で見ると、経常利益率の平均は5%台と、比較的良好な状態となっていることがわかりました。とは言え、製造業の経常利益率が他業界よりもずば抜けて高くなっていることが、平均値の高まる大きな要因となっています。
次に、中小企業(小規模企業・中規模企業)における一部業界ごとの経常利益率の平均を紹介します。
■中小企業の産業別経常利益率(推移)
産業 経常利益率(%) 2018年度 2019年度 学術研究・専門・技術サービス業 7.81% 13.82% 不動産業・物品賃貸業 8.95% 7.63% 情報通信業 5.91% 5.36% 建設業 4.92% 4.83% 製造業 4.45% 4.14% サービス業 5.02% 3.98%
中小企業における経常利益率の業界平均値データによると、製造業は例年4%台となっていました。中小企業においては特に学術研究・専門・技術サービス業や不動産業・物品賃貸業の経常利益率が高く、学術研究・専門・技術サービス業においては1年間で約6%も経常利益率が高まっている傾向です。2020年から流行した新型コロナウイルス感染症による世界的な情勢の影響も、少なからずあると言えるでしょう。
3.経常利益率を財務分析に用いる方法
経常利益率は、財務分析に活用することが可能です。経常利益率を指標とした財務分析は、特に下記のデータを把握したいときに適切と言えます。
〇自社過年度との比較
経常利益率は、自社過年度との財務状況を比較する場合に役立ちます。前年度よりも経常利益率が低くなっている場合は、経費を抑える・売り上げを伸ばすなど最適な改善策が生まれるでしょう。
〇業界平均との比較
業界内で平均を比較する際も、経常利益率が役立ちます。前述した経済産業省・中小企業庁からの同業界の経常利益率データと自社の経常利益率を比較することで、自社の状況が把握できるだけでなく課題も自ずと生まれるでしょう。
〇競合企業との比較
同業他社である競合企業との比較にも、経常利益率が活用されます。他者の経常利益率といった財務情報は、企業情報データベースから確認することが可能です。ライバル企業の収益性をチェックし、自社の収益改善に役立てましょう。
4.経常利益率を財務分析に用いる場合の注意点
企業の基礎的かつ総合的な収益性の判断基準として経常利益率をチェックすることは当然大切ですが、一概に経常利益率が高いからと言って、収益性や経営力に優れている優良企業とは言えません。
ケースによっては、経常利益率が高いA社と、経常利益率がA社より低いB社でも、実質的な利益はB社の方が優れている可能性も多々あります。経常利益率だけに着目していると、かえって損失を生んでしまう可能性があるため、経常利益率に依存しないようにしましょう。
財務分析を行うときは、経常利益率だけに左右されず、他利益・損失項目もくまなくチェックして総合的に判断することが重要です。つまり、経常利益率を高めることを企業成長の目的にしないようにしましょう。
まとめ
経営指標の中でも、企業の収益性を示す指標が経常純益率です。経常利益率は、企業の財政状態や営業成績の分析、さらに課題の作成と改善に欠かせない項目と言えます。しかし、正しく経常利益率を算出しなければ、企業の総合的な収益性を伸ばすことはできません。
企業規模を問わない全産業における経常利益率の平均はおおよそ3~4%と言われていますが、実際は企業規模・産業ごとに平均値が大きく異なるため、比較の際は「同規模の競合他社」がおすすめです。
ここまでの内容を参考に、ぜひ自社の経営純益率をチェックしてみてください。また、自社の経常利益率を正確に算出することが困難という場合は、財務に詳しい専門家に依頼することがおすすめです。八王子市周辺で税理士を探している方は、ぜひ「木村慎太郎公認会計士・税理士事務所」にご相談ください。