生前贈与とは?メリット・デメリットや近年の動向を解説

生前贈与とは?メリット・デメリットや近年の動向を解説

2015年に相続税が改正されたことにより、相続税の課税対象範囲は広がり、最高税率も引き上げられました。財産の贈与にかかる税負担をなるべく抑えたいのであれば、生前贈与がおすすめです。

また、生前贈与とひとくちに言っても、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの課税方法・制度から選択することが可能となっており、それぞれ税金に関する規定が異なります。併用することができないため、相続前によく検討して選択しなければなりません。

そこで今回は、生前贈与の概要から課税に着目した2つの方法・制度、さらに生前贈与のメリット・デメリットや税制改正の動向まで詳しく解説します。

 

1.生前贈与とは?課税に着目した2つの方法も

生前贈与とは、その名のとおり生前、つまり存命中に財産を贈与することです。

財産の贈与は一般的に「相続」という言葉が挙げられますが、相続は財産の贈与者が死亡したあと、特定の人に財産(遺産)を継承することを指します。相続と生前贈与とでは財産を贈与するタイミングだけでなく、各人の呼び名も異なることを覚えておきましょう。

 財産を贈与する人財産を受け取る人
相続被相続人相続人
生前贈与贈与者受贈者

2015年に相続税が改正されたことにより、基礎控除が4割削減され、課税対象が広がります。最高税率も55%に引き上げられ、実質増税という形になりました。この法改正により、生前贈与が「相続対策に有効」と注目されています。

また、生前贈与には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの贈与方法(受取方法)があります。

 

1-1.暦年課税

暦年課税とは、受贈者が1年間(その年の1月1日から12月31日まで)に受け取った財産の合計金額が110万円を超えた場合、超過分に対し10~55%の贈与税が課税されるという制度です。財産の合計金額が110万円以下であれば、受贈者は申告手続きを行ったり贈与税を支払ったりする必要がありません。なお、贈与税の計算は下記の速算表を使用しましょう。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1,000万円以下40%125万円
1,500万円以下45%175万円
3,000万円以下50%250万円
3,000万円超55%400万円

引用:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」

暦年課税は、生前贈与を選択した際の通常の課税方式であり、後述する相続時精算課税の制度申請を行わなかった場合は自動的に暦年課税方式を選択したことになります。

暦年課税は贈与者・受贈者の制限がなく、血縁などにかかわらず適用される点が特徴です。相続時精算課税を選択しない限り回数制限がなく、受贈者ごとに110万円の非課税枠が適用されるため、贈与方法によっては大きな節税効果を得られるでしょう。しかし、超過分によって最大55%課税されるため、多額の贈与には向いていない点がデメリットです。

 

1-2.相続時精算課税

相続時精算課税とは、2,500万円まで非課税で贈与できる一方で、贈与者の死亡時にその時点での贈与財産の価額と相続財産の価額の合計額から相続税額を算出し、相続税として納税するという制度です。

相続時精算課税は、暦年課税と異なりあらゆる条件が設けられています。まず贈与者の条件は贈与した年度の1月1日時点で60歳以上で、両親または祖父母(直系尊属)でなければなりません。そして受贈者は、贈与を受けた年度の1月1日時点で20歳以上の推定相続人、および孫であることが条件です。

非課税額は、受贈者ごとに2,500万円となります。利用回数の制限もありません。この特別控除額を超えた場合は、超過分に対して一律20%の課税額が発生します。

また暦年課税の場合、贈与された財産の合計金額が非課税枠内であれば、受贈者が申告手続きを行う必要はありませんでしたが、相続時精算課税の場合は非課税枠内であっても申告手続きを行うことが義務付けられています。

 

2.生前贈与のメリット・デメリット

生前贈与には大きく「税負担を抑えられる」というメリットがありますが、具体的にどのような節税効果があるか把握していない人も多いのではないでしょうか。さらに、生前贈与には税負担を抑えられる以外のメリットもいくつかあります。

また、生前贈与はメリットだけでなく、少なからずデメリットもある点に注意が必要です。

ここからは、生前贈与のメリット4つとデメリット3つを説明します。

 

2-1.4つのメリット

生前贈与のメリットは、下記のとおりです。

メリット(1)相続税を節税できる
相続時に被相続人の財産が少なければ、相続税も自ずと減少します。死亡後に全てを相続した場合と存命時に非課税枠内で財産を継承する場合とでは、相続人の相続税負担が大きく異なります。このように生前贈与で上手に財産を継承すれば、相続人が支払うべき相続税の負担を抑えられ、結果としてより多くの資産を残せる点が最大のメリットです。
メリット(2)法定相続人以外の人に財産を継承できる
相続の場合、基本的に法定相続人しか財産を継承することができません。法定相続人とは、被相続人の配偶者や血縁関係にある人です。しかし、生前贈与(暦年課税)の場合は受贈者と受贈者に贈与する財産の内容を自由に選ぶことができます。贈与者・受贈者ともにメリットがあると言えるでしょう。
メリット(3)特例制度を活用すればさらに節税効果が上がる
贈与においては、控除に関するさまざまな特例が設けられています。例えば、婚姻期間が20年以上となる夫婦間で居住用の不動産が贈与された場合、基礎控除110万円に加えて特例控除として最高2,000万円まで控除を受けられます。その他にも、期間限定の特例措置が設けられている場合もあるため、よく調べておきましょう。
メリット(4)相続トラブルとなるリスクを回避できる
生前贈与は、相続トラブルの回避にも役立ちます。例えば相続の場合、長男Aに土地・住宅や財産を多く残したいと考え遺言書を残しても、次男Bが遺留分を請求してくる可能性もあるでしょう。しかし生前贈与はこのような請求権がないため、子ども同士や親族間で起こり得る相続争いを回避することが可能です。

 

2-2.3つのデメリット

生前贈与のデメリットは、下記のとおりです。

デメリット(1)生前贈与として認められない可能性がある
生前贈与は、「受贈者が合意していない」「控除・特例の条件を満たしていない」などが原因で、生前贈与として認められない可能性があります。また、1年ごとに110万円ずつなど、数年かけて定期的に財産を贈与するケースも見られます。しかし、節税目的の計画的な贈与とみなされると「生前贈与」ではなく「定期贈与」と判断され、本来であれば基礎控除額内であった110万円の贈与に対しても贈与税が発生してしまう点にも注意が必要です。
デメリット(2)贈与から3年以内に贈与者が亡くなると相続税が発生する
生前贈与として贈与した財産については、相続財産に含まれません。しかし、相続開始する前の3年以内に贈与された財産は、相続税の課税対象となってしまいます。生前贈与の恩恵をなるべく最大限受けるためには、贈与者が元気なうちに生前贈与を行うことがおすすめです。
デメリット(3)遺留分侵害額(減殺)請求をされる可能性がある
被相続人が死亡し、相続発生する前の1年以内に行われた贈与や、贈与者・受贈者の双方が、他相続人の遺留分に損害を与えることを認識したうえで行われた贈与においては、他相続人が遺留分侵害額を請求することが可能です。なるべく早い段階で生前贈与を行う・遺留分を考慮して贈与もしくは相続するなどして、起こり得る相続トラブルを回避しましょう。

 

3.生前贈与・相続税に関する税制改正の動向

あらゆる税改正が行われる近年、生前贈与・相続税に関しても税制改正の動きを見せています。2020年には「贈与税と相続税の一体化」を政府・財務省・与党が目指していることが発表されました。これは、富裕層と貧困層の格差をなくすための政策とされています。すでに海外では贈与税と相続税の一体化を進めている国も多く、日本も国際基準に揃える方針です。

今後の動向や、実際にどのような法改正が進められるかはまだ不明瞭であるものの、「近いうちに格差をなくすための抜本的な改革が行われる」という意見も多くあります。

税負担を抑えることを目的に生前贈与を考えている場合は、できる限り早く行った方が得策です。前もって行うことで、法改正後にこれまでできていた節税対策が行えなくなるといったことがなくなるほか、相続トラブルも回避することができるでしょう。

 

まとめ

相続税をなるべく抑えたいのであれば、生前贈与がおすすめです。生前贈与には暦年課税方式と相続時精算課税制度の2つがあり、どれほどの価額の財産を継承するかで適切な方法が異なります。

生前贈与には主に節税に関するメリットがある一方で、あらゆる条件によるデメリットも存在します。メリットとデメリットを比較したうえで、適切な方法を選び、早めに準備を進めましょう。

また、近年では「贈与税と相続税の一体化」をはじめとした税制改正も検討されています。生前贈与を検討しているのであれば、ここまでの内容を参考にできる限り早く行うことをおすすめします。