総資本回転率とは?数値が低いときの原因・対処法を紹介

総資本回転率とは?数値が低いときの原因・対処法を紹介

経営している事業・企業の財務分析をする際、「総資本回転率」という言葉を聞いたことがあるという人は多くいるでしょう。「総資産回転率」とも呼ばれるこの言葉は、総資本に対する売上高割合をチェックするための重要な指標です。

会社として、持っている資産を活用して多くの売上高を上げることは欠かせません。今回は、総資本回転率の概要や計算方法から、総資本回転率が低い場合の原因と対処法、さらに総資本回転率とよく似た2つの指標まで詳しく解説します。企業経営者はもちろん、経営者・企業で財務周りを担当している従業員もぜひ参考にしてください。

 

1. 総資本回転率とは?

総資本回転率とは、会社が持つ総資産によってどれだけの売上が生まれているかを把握できる指標です。「総資産回転率」とも呼ばれます。総資本回転率(総資産回転率)によって、どれほどの総資産を効率的かつ有効的に活用しているかをチェックすることが可能です。

例えば、総資本が500万円/売上高が1、000万円のA会社と、総資本が800万円/売上高が1,200万円のB会社の場合、売上高が伸びている会社はB会社のほうです。しかし、A会社は総資本の2倍の売上高であり、B会社は1.5倍の売上高となっています。つまり、総資産を効率的に活用しており、総資本回転率が優れているのはA会社のほうと判断できるでしょう。

総資本回転率には、幅広い業種においてある程度の目安が存在します。業種によってもさまざまな考え方があるものの、基本的に総資本回転率は「1.0」を上回っているかどうかが目安となります。数字が高ければ高いほど、効率的に経営できていると判断することが可能です。

 

1-1. 総資本回転率の計算方法

総資本回転率の基本的な計算式は、下記の通りです。

  • 総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資本

なお、より詳しい総資本で総資本回転率を求めたい場合は、期首の総資産と期末の総資産を足し、出た総資産を2で割った「総資産期中平均値」を活用してください。

上記の基本的な計算式を用いて、前述したA会社・B会社の総資本回転率を下記に割り出します。

〇A会社(総資本:500万円/売上高:1,000万円)

  • 1,000万円 ÷ 300万円 = 2

〇B会社(総資本:800万円/売上高:1,200万円)

  • 1,200万円 ÷ 500万円 = 1.5

A会社の総資本回転率は「2」で、B会社は「1.5」でした。このことから、A会社のほうが総資本回転率は優れており、比較的少ない総資本で効率的に売り上げを伸ばしていることがわかります。

このように、総資本回転率の計算方法は決して複雑なものではありません。財務諸表などで総資本と正しい売上高を確認できれば、企業経営者だけでなく経理担当者でも簡単に算出することが可能です。

 

1-2. 業種ごとの総資本回転率の平均

総資本回転率の平均値は、業種によって異なることも特徴です。下記に、令和元年度における各業種の平均総資本回転率を紹介します。

業種総資本回転率
建設業1.26
製造業0.99
運輸業・郵便業1.19
卸売業1.78
小売業1.85
不動産業・物品賃貸業0.33
宿泊業・飲食サービス業1.04

出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査 / 令和2年確報(令和元年度決算実績) 確報」

特に全体で総資本回転率の高い業種は、小売業・卸売業です。一方で、総資本回転率が低い業種は不動産業・物品賃貸業となっています。製造業も「1.0」を満たしていません。

業種によって数値の大きな開きが発生する理由は、その業種の方針にあります。小売業・卸売業は売る商品・サービスの価格が少額であることから回転率が重要となり、少しでも効率的に売上を確保しなければ利益は生まれません。反対に、売る商品・サービスの価格が高額となる不動産業・物品賃貸業は、お客様との信頼関係を築きながら、長期間にわたり売上を確保するやり方が一般的です。

 

2. 総資本回転率が低い場合の原因と対処法

業種によって数値の開きがあるとは言え、総資本回転率が低い場合は何らかの対処・対策を講じるべきと言えます。総資本回転率の低さを放置していると、やがて経営難に陥る可能性も十分あるでしょう。

ここからは、総資本回転率が低い場合の原因と対処法を、それぞれ2つずつ紹介します。

 

2-1. 【原因1】売上が下がっている

総資本回転率が低いことの最も大きな原因は、単純に「売上が下がっているため」です。売上が下がると、当然売上高も下がります。売上高は総資本回転率を求める計算式の分子となるため、総資本回転率も必ず低下します。

売上が下がっていることが原因の場合、後述する対処法以外にもあらゆる対処法が存在します。例えば、新規の販路拡大や商品の改善、営業方法の見直しなどです。業種や販売している商品・サービスによっても解決すべき問題点はそれぞれ異なるため、まずは一度現状を全体的に見直してみることをおすすめします。

 

2-2. 【原因2】売上に貢献しない資産がある

総資本回転率が下がるもう1つの原因が、「売上に貢献しない資産がある」ことです。例えば、株式や賃貸物件などの投資資産、さほど稼働・活用できていない機械やシステムなどが挙げられます。

総資本回転率の計算式は、売上高のみを考慮するため、投資による配当金といった一時的な収入は加味されません。

総資産が大きい場合は、このような利益を生み出さない資産が隠れている可能性が大いにあります。比較的大きな総資産を抱えている場合は、一度売上に貢献しない資産がないかどうかを確認しましょう。

 

2-3. 【対処法1】売掛金を回収する

あらゆる業種に対応した総資本回転率の改善方法が、売掛金の回収です。売掛金とは、掛取引で商品を販売したときに、将来的に商品代金として受け取れる未収代金を指します。

多くの業者と取引を行う上で、掛取引を行うことも多々あるでしょう。未収代金を受け取っていないままだと当然売上高に含めることができないため、総資本回転率も低下します。掛取引によって回収できていない売掛金があれば、きちんと回収するようにしましょう。

 

2-4. 【対処法2】遊休資産を処分する

総資産が大きい会社の場合は、遊休資産を処分することで総資本回転率が上昇する可能性があります。遊休資産とは、事業目的で取得した資産のうち、有効に活用できておらず、利益すらも生み出していない資産のことです。

遊休資産は、「いつかは利益を生み出す資産となるかもしれない」という思いから、即座に処分することをためらう人もいます。しかし、経年劣化により年月が経てば価値がなくなっていくものに関しては、高く売れたはずが安い価格でしか売れなくなり、結果として損をする可能性があります。そのため、気付いた段階で早期に処分することがおすすめです。

 

3. 総資本回転率とよく似た指標2つ

総資本回転率によく似た指標には、「経営資本回転率」と「有形固定資産回転率」の2つが挙げられます。

〇経営資本回転率

経営資本回転率とは、事業活動に関係のない資産を除外した資産を経営資本として、1年間でどれだけの売上が生まれているかを把握できる指標です。総資産回転率を求める際に用いる総資産には、事業活動に無関係の資産が含まれることもあります。本来の事業活動にのみ活用されている資産で計算するため、実態に合った効率性を確認することが可能です。

〇有形固定資産回転率

有形固定資産回転率とは、企業の効率性を分析する比率の1つであり、企業が所有する有形固定資産がどれほど有効に活用されているかが把握できる指標です。製造業など、装置や機械を主に使用する業種によく用いられる指標となります。

これらの指標は、業種によって必要のないケースもあるため、必ずしもすべての指標を活用して実態を調査する必要はありません。しかし、将来的に多方面からの分析を行う際に知っておいて損はないため、覚えておくとよいでしょう。

 

まとめ

総資本回転率とは、会社が持つ総資産によってどれだけの売上が生まれているかを把握できる指標です。どれほどの総資産を、効率的かつ有効的に活用しているかを計る尺度となり、「総資産回転率」とも呼ばれています。

総資本回転率の計算方法は、財務諸表などで総資本と正しい売上高を確認できれば比較的簡単で、企業経営者だけでなく経理担当者でもすぐ算出することが可能です。

総資本回転率が低い場合は、「売上が下がっている・売上に貢献しない資産がある」の2点が原因として考えられます。どのように対処すべきかは、それぞれの会社で起きている問題によって異なるため、まずは一度現状を全体的に見直してみてはいかがでしょうか。