税務調査と聞いて、「令状を持った調査官が突然訪れ、事務所や自宅のありとあらゆるものを調査される」というイメージが浮かぶ人は多いのではないでしょうか。税務調査の大半は、事前に日時の通知があります。ただ、調査範囲は多岐にわたり、準備する書類も膨大になるため、日頃の経理処理・経営環境の整備が重要です。
当記事では、税務調査の時期の目安や詳細内容・事前対策について解説します。税務調査に対する不安を解消したい人は、参考にしてください。
1.税務調査とは?
税務調査とは、納税者の確定申告内容や納税額が適切か、税務職員が税務署のデータおよび納税者の事業所を調べることを言います。税務調査により申告内容に誤りがあると判断された場合、事業者は修正申告を行うほか、納税額が増える場合は追加納税が必要です。税務調査は、申告納税制度の維持を目的としており、事業者に対して正確な申告をするよう指導するだけでなく、脱税行為には罰則を与えます。
国税庁によると、2019年の税務調査1件に対する追徴税額は347万円
です。追徴税額は2015年以降年々増加しており、不正を見抜く技術の向上がうかがえます。
1-1.税務調査が実施されやすい時期
税務調査が実施される時期は、納税者の決算月により以下のように変化します。
決算月が2月〜5月 | だいたい7月〜12月に税務調査 |
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決算月が6月〜1月 | だいたい1月〜6月に税務調査 |
税務調査の実施件数が多い月は、おおむね9月~11月です。日本に多い3月決算の法人は、基本的に以下のスケジュールで税務調査が行われます。
7月~8月 | 税務調査官が税務署のデータベースを調べ、実地調査先及び調査項目を選定 |
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9月~11月 | 事前通知・実地調査の実施 |
12月は繁忙期に入り、企業・税務署ともに税務調査への対応が難しくなるため、税務調査件数は減少します。
1-2.税務調査が実施される時期のサイクル
税務調査が実施される時期のサイクルに明確な決まりはありません。国税庁の資料によると、2016年の税務調査率は法人で3.2%、個人で1.1%と報告されています。年数に直すと、法人は約31年に1回、個人は約91年に1回の頻度で税務調査が行われる計算です。
また、税務調査以外の書面・電話・税務署での聴き取りを含めた、税務署から納税者への接触率は3年間で12.8%です。計算すると約23年に1回の割合で、何かしら税務署の調査が入ると考えられます。
ただし、上記の数字はあくまでも目安であるため、参考程度にとどめてください。
2.【項目別】税務調査の詳細を解説
税務調査は、不正が疑われる企業・個人事業主を特定する精度が年々上がっています。そのため、ルールに則った申告をしていれば、今後税務調査を受ける可能性はさらに低くなるでしょう。一方で、ルールを逸脱した申告をしている場合は、毎年税務調査を受ける可能性もあります。
税務調査の備えとして重要なのは、税務調査の詳細を事前に知っておくことです。ここでは、税務調査の詳細を種類・流れ・調査項目の3つに分けて解説します。
2-1.【種類】任意調査と強制調査の2種類
税務調査は、任意調査と強制調査の2種類があります。それぞれの概要は以下の通りです。
任意調査 | 任意調査は、納税者の同意を得て行う税務調査です。とはいえ、拒否するとペナルティが発生する可能性が高く、調査を避けることは実質難しいでしょう。また、現金商売を主とする飲食店などは、事前連絡なしに調査官が訪れ、帳簿記録・レシート発行・現金管理の状況を確認する「現況調査」が行われる場合もあります。 |
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強制調査 | 悪質な事案には、裁判所が「強制捜査許可状」を発行した上で強制調査が行われます。事前通知はなく、納税者が調査を拒否することも不可能です。多額の脱税が疑われる納税者が対象となります。 |
任意調査の大半は事前通知があり、日程の変更も可能です。
2-2.【流れ】事前の通知から始まる
税務調査開始から終了までの流れは以下の通りです。
事前通知 | 税務署から、書面や電話などで税務調査の実施が通知されます。申告書の作成をお願いしている顧問税理士がいる場合、日程調整が必要か相談・検討しましょう。 |
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準備期間 | 実地調査に向けて、金銭が絡む過去3期分の書類整備や、現預金の管理状況などを確認します。顧問税理士がいる場合は、税務調査官からの質問対策も含め、綿密な打ち合わせを行って準備を進めてください。 |
実地調査 | 実地調査の日数は2日間が大半です。調査内容は、経営者・経理担当者へのヒアリングや各種書類の調査、現預金残高の確認など、多岐にわたります。 |
結果通知 | 通常は約1か月で税務調査の結果が通知されます。申告内容に問題があれば修正申告を求められるため、調査結果の説明に納得した場合は修正申告を行いましょう。 |
税務調査の結果に納得がいかない人は、税務署長に対して再調査を請求できます。
2-3.【調査項目】売上高や人件費など
税務調査官が、調査時に注目する項目の一例を紹介します。
項目 | 注目するポイント |
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売上 |
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売上原価 |
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減価償却費 |
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修繕費 |
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人件費 |
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交際費 |
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税務調査は、売上の過少計上・経費の過大計上がないかに重きを置いたチェックが一般的です。
3.税務調査の事前対策4選
税務調査の結果は、準備の仕方次第で変わる可能性があります。税務調査の事前対策として、以下の4つを押さえましょう。
- ・過去の帳簿を確認する
- ・必要書類を漏れなく用意する
- ・会計処理を変えない
- ・税理士の相談を受ける
ここでは、上記4つの事前対策方法を解説します。
3-1.過去の帳簿を確認する
記入のミス・申告漏れがないか、過去の帳簿を確認します。税務調査後に申告漏れが発覚した場合、増加する納税額に対する過少申告加算税の納付が必要です。過少申告加算税の税率は一般的に10%(最初の申告額と50万円のうち多いほうの額を超える部分は15%)
とされています。
ただし、税務調査前に修正申告を行えば、過少申告加算税の税率を5%低くできる
可能性があります。そのため、税務調査前に申告漏れを発見したときは、早急に修正申告を行いましょう。
3-2.必要書類を漏れなく用意する
税務調査は、申告税額の正誤調査が主な目的です。帳簿書類は過去3期分の用意が一般的で、保管義務期間内の書類は開示を求められる可能性もあります。主に必要となる書類は以下の通りです。
- ・各種帳簿
- ・請求書
- ・見積書
- ・発注書
- ・納品書
- ・領収書
- ・精算書
- ・稟議書
- ・各種税金納付書の控え
- ・契約書
また、会社概要・雇用契約に関する書類も用意しておくと、調査がスムーズに進みます。
3-3.会計処理を変えない
会計処理を変更すると、経営実態に変化がない場合でも決算書の数字が大きく変化し、税務調査で指摘される場合があります。一度採用した会計処理方法は、以下に該当する場合を除いて変更しないことが大切です。
<変更できる会計処理方法の例>
- ・会社の事業内容・経営環境の変化に対応するための変更
- ・経営状態をより適切に財務諸表へ反映させるための変更
3-4.税理士の相談を受ける
決算書の根拠となる書類の準備・確認は手間がかかります。また、各書類が調査に耐えうる状態まで整備されているかの判断は、専門知識がなければ困難です。
税理士に相談することで、書類の整備だけでなく、税務調査官に指摘されそうな部分の把握や、質問への対策なども行えるというメリットがあります。「事業が忙しく税務調査の準備に割く時間がない」「漏れなく準備できるか不安」という人は、税理士の相談を受けるとよいでしょう。
まとめ
税務調査は、納税者の不正に対する牽制機能の役割を果たしています。税務調査を受ける頻度は、年平均数%の低い確率です。ただし、脱税が疑われる納税者に対しては頻繁に税務調査が行われる傾向にあります。
税務調査の準備では、過去3期分の帳簿書類の整備や、保存義務がある期間に該当する書類も、求めに応じて提出できる状態にしておくことが必要です。調査官の質問に対する回答内容も、税務調査の結果に影響を与えます。不安な人は税理士に相談し、対応を依頼すると安心です。